宮之浦岳に登る. 

       



 9月上旬,霊長類好きな友人Cくんと共に屋久島へ旅に行ってきました.帰る日は決まってない.予定も大学実習が4日間ある,宮之浦岳縦走をする,口永良部島に行くくらいで細かくは決まってない.そんな大学生らしい現地で旅スタイルを描く自由な旅にしよう!と思っていたのですが,滞在する日数を重ねるごとにこの島の深さに気付かされ,人との出会いから旅のかたちはまったく想像していない方向に変わっていきました.予定は相当変わったけど,逆にそれがおもしろかった(笑).友人のことばをかりると,「最初の頃だけだったら屋久島は自然がきれいなとこだったねで終わった気がするけど,今なら屋久島は人も自然も本当におもしろいところだっていえる」

 日程はこんな感じでした.

9/4 夜行バスで鹿児島へ.
9/5 夜行バスで6時間かけて鹿児島到着.カブで来た友人とおちあっていざ屋久島へ.フェリーが揺れに揺れる.口永良部に行けずレンタカーで島内をめぐる.ヤクスギランド→海中温泉近くで車中泊.昼は地魚定食,
9/6 朝から海中温泉.屋久島フルーツランド→メヒルギ群落→大川の滝→ガジュマル公園.素泊まり民宿泊.宿のマンガ「夢で逢えたら」にハマる.
9/7 原付で自然観察しながら島一周.宮之浦→永田いなか浜→西部林道→千尋の滝→春田浜→宮之浦 素泊まり民宿泊.
9/8  大学実習1日目 川遊び.満ち干きのことを考えておらずスリッパが屋久島の海へ.
9/9  大学実習2日目 ヤクスギランドで研修,星空観察.山の中+新月で星空が素晴らしかった.
9/10 大学実習3日目 バスで島一周.
9/11 大学実習4日目 おみやげ屋など.
    縦走1日目 昼から食料を買い込み,淀川登山口→淀川小屋.淀川の清流でのんびり.夜はヤクシマヒメネズミと共におやすみ.
9/12 縦走2日目 のこされた齧りかけのクリームパンとフンに衝撃をうける.淀川小屋→宮之浦岳縄文杉→新高塚小屋.夜はさば節とパンで細ぼそと. 
9/13 縦走3日目 新高塚小屋→縄文杉→白谷雲水峡.夜は登山終了祝杯でシカ刺し&地魚定食.
9/14 西部地域でヤクシカ植生影響調査参加.
9/15 西部地域でヤクシカ植生影響調査参加,夜はヤクシカ肉を食べながらいろんな人と飲み.
9/16 ヤクタネゴヨウ調査参加.最後の夜ということでいっぱい飲み.
9/17 宮之浦でおみやげ買い→フェリーで鹿児島へ.黒豚を食べて福岡着.

 さてさてそんな屋久島の旅行記を書いていこうかな,と思ったのですが,なにせ12日間は長い.ということですべてを書くのは挫折いたしました(笑).そこで特におもしろいと思うとこだけ書こうと思います.

 まずは9月11日〜13日の宮之浦岳縄文杉〜白谷雲水峡縦走.急げば1泊2日で行けるコースですが,1日目に淀川小屋に泊まり,山中2泊3日で行くことにしました.これは日頃運動不足の身を案じての策.


9月11日,淀川登山口〜淀川小屋 清流でサトウムシとあそぶ

 

 11日,食料を地元スーパーわいわいらんど*1で購入.山のお供に持っていくことにしたのは・・1.カロリーメート(山といえばこれっしょ!)2.菓子パン 3.さば節+マヨネーズ.さば節は屋久島の名産で,それまでの旅で気に入った品.身自体が柔らかいのでちぎってマヨネーズをつけて食べると美味なのです.

 バスにゆられて紀元杉バス停まで.早速淀川登山口から登り始める.屋久島らしくない乾燥した道を登ると,40分くらいで淀川小屋に到着.夕方4時,すでに何人かが到着していました.


 うん,イメージ通りの山小屋.そして壁に気になる張り紙.ヤクシマヒメネズミ! 夜になったらお目にかかれるかな.わくわく.


 まだまだ寝るまで時間があるので,近くの淀川におりてみました.
   
水が冷たい,そして透明度が凄い. 水温が低く,流れも早いからか石の裏にも藻が生えていません.
石の上に座ってボーッと一息.
川面にはベニトンボらしきトンボが飛び,淀んだ場所には多くのアメンボが輪を描いています.
う〜んいいところだ!


あれっワニさん?
   

   
   


暗くなるまでCくんは読書,自分は石の上で踊るザトウムシと遊びながら夕日を眺めていました.木々の間に夕日が沈み,空がオレンジ色から青色へと微妙なグラデーションを描きながら変わっていきます.「あ〜贅沢だね」とか言ってると,空はあっという間に真っ暗になりました.
淀川小屋に戻ると,7時前なのにもう真っ暗.みんなもう寝る支度をはじめていました.山の夜の訪れのはやさを実感.こんなはやい時間に寝れるかよと思いましたが寝袋にくるまると爆睡でした.


9月12日,淀川小屋〜宮之浦岳縄文杉〜新高塚小屋,高山の眺めを楽しむ

翌朝5時──さあ起きて,パンでも食っていこうと思い袋をガサガサすると,・・あれ?クリームパンの袋に穴が.これはもしや!? まんまとねずみくんにやられてました.パンボロボロ.その上には彼のものと思われるフン.あーあ大好物のクリームパンが・・2日分の食料が・・友人の食料は大丈夫だったようで,管理が悪い!と言われました.小屋にとまるみなさん,貴重な食べ物の入った袋はザックの中に入れておきましょう.ヤクシマヒメネズミが見たい方は食べ物をおいて待っといたらいいかもしれませんね(笑).

気をとりなおして登っていきます.淀川小屋から宮之浦岳まで6.5km.
しばらく登ると展望台に出て,60代くらいのおじいさんが上から声をかけてきました.「屋久島の山はやっぱり朝がいいね!こんなに晴れるなんて運がいいよ!」
見ると,
    
    
おー確かにこれは凄い.しばらく屋久島の平地から山を眺める機会が多かったのですが,上からの眺めはまた雄大です.
おいしそうなトーフ岩を左手に眺め,
    
登ったり降りたりを繰り返すとやがて小花之江河,花之江河に到着.ここまでくると霧が立ち込めてきて,まさしく高山!というような雰囲気になってきます.この湿原は日本最南端の高層湿原.湿原好きにとってはもうコーフンです.ミズゴケの群落が広がり,ところどころにマツが生えた湿地は人間が管理したみたい.友人は「もしかして日本の庭園とかもこういう湿原をモデルにしたのかもね」って言ってましたが,確かに金沢の兼六園の庭にそっくりだな.トンボやカエルの姿を探してみましたが見当たらない.

花之江河からは登山道の周りが湿地状になり,まわりの木の高さがどんどん低くなっていきます.岩場に挟まれた狭い階段や,ロープ道を乗り越え,どんどんすすむ.
すると・・前をノッシノッシと歩く生きものが!
巨大なニホンヒキガエルでした.山口や福岡では絶滅危惧種に指定されなかなか会えないこのカエル.嬉しくて思わず掴んでしまいました.硬いとも柔らかいともいえないこの感触.若干山口で見るものより,足などの筋肉が発達しているようにみえましたが,高山に適応しているのでしょうか.

この辺りからが高山植物が姿を現し始めます.高山の厳しい環境によりあまり大きく成長せず矮小化した高山植物




モウセンゴケ,ヤクシマコオトギリ,ヤクシマウメバチソウ,ハナヤマツルリンドウ,ヤクシマママコナ,ヤクシマシオガマかな.
モウセンゴケは湿った岩場に多く自生.ウメバチソウ,ママコナ,シオガマ共に本州の近縁種よりも花が大変小さい印象を受けました.日照時間が少なくて,花崗岩が元になった土壌で養分が少ないので,花にあまりコストを掛けられないのでしょう.地理的条件や環境条件と植物体のコスト分配の関係を調べるのも面白そう.そしてそれぞれの種に本州に生息する近縁種のペアが存在しているのも,氷河期北から南に分布を拡大して,南の島の高山に取り残され進化した歴史を感じられて興味深いです,
それにしても予想以上にいろいろな高山植物に出会えておもしろかった.このあたりで高山植物を眺めていると,鹿児島より南の島にいることを忘れてしまいそうです.



しばらく行くとこんな澄んだ水場が.生き返る〜! 早速水をペットボトルに詰め込みます.この登山道ではピンポイントに美味しい水をゲットできるので,水には困りません.
    


そして平石岩屋という大きな岩に到着.本当ならここから宮之浦岳が望めるはずですが,残念.霧で見えず.このあたりが森林限界でヤクシマダケというササのような植物が道の両側に分布するようになります.この頃にはもうバテていた.Cくんはいたって元気.待ってくれ〜


さあここからがもうひと踏ん張り.あまり風景が見えなかったのですが頂上を目指して一気に登る.


予想通り頂上からは霧で何も見えず… しかし,九州でいま一番高いところにいると思うと何となく嬉しかった.
というよりやっと登りが終わった…という嬉しさのほうが大きかったけど…笑 


頂上では展望台で出会ったおじさんからいろいろ話を聞きました.おじさんは今富士山,伊豆諸島,徳之島などなど日本中を旅して回っているそう.
「今まで行けなかったとこをいろいろ回ってみたくてね」.そんなおじさんも大学生の頃はバックパッカーで世界中を旅していたとか.
「大学生の頃はやろうと思えば何でもできるよ.やろうと思うことが大事だ」
そんな話を聞いてますます旅への夢を膨らましました.うん,いろいろこれから行ってみたいな.


さてさて頂上はなかなか寒いので,記念撮影をした後縦走の続きに入ることに.


霧の中2mを上回るような高さのヤクシマダケをかきわけかきわけ,20分ほど歩くと
霧が晴れ,屋久島の森が姿を現しました!


大きな岩によじ登ると森林限界から照葉樹林,そして海まで広い森が広がり,
ぼーっとしばらく風景を眺めていました.


    
   
 
    


    


ここはどこなんだろう.
とふと考えてしまうようなところ.


海岸部にはハイビスカスが咲き,世界有数のウミガメ産卵地が広がってる.
高山植物を傍らに森林限界から眺める風景からは,なかなか想像できないですね.


この海岸部から高山まで残された環境の多様性こそがこの島の魅力だなと感じました.
ホントに欲張りな島だ・・


さて,ここから新高塚小屋まで上り降りを繰り返して歩きます(基本的に下り).
ハンミョウに道を教えてもらう乾燥した草原道
川と道が一緒になり,ヒキガエルが傍らをのそのそ歩く湿地道
そんな楽しい道を通り過ぎ,
道沿いに幹が赤色で特徴的なヒメシャワの森が広がってきたら新高塚小屋はもうちょっとです.

    

そして15時に新高塚小屋着.
多くの登山客がもう到着していました.たくさんの服を湧き水で洗濯して干している人たちもいて,周りは生活感満載です.


そこから1時間弱で,縄文杉到着.
さすがにでかいですね・・
この時間は1週間ここにずっと滞在して縄文杉を撮影しているというカメラマンの方しかおらず,縄文杉くんとじっくり対面できました.
右側の幹が顔に見える.


「お〜い 人間どもじろじろ見るな」
とか言ってるのかな
・・なんていろいろ想像してみるとおもしろい(笑)
炭素年代測定法とか幹の大きさの比較とかで,樹齢に関して幅広い予想がされていますが,実際何年生きているのでしょう.
    


ここからまた新高塚小屋へ.
宮之浦岳から縦走されるみなさん,この往復はかなりキツイです.
地図上はすぐに見えますが,今まで縦走してきた足にはすごく長く感じます.
最後ははうようにして,小屋に到着・・

9月13日,新高塚小屋〜縄文杉〜白谷雲水峡

4時半に起きて出発.
朝の縄文杉を眺めてから,白谷雲水峡方面へ.


それにしてもこのルートは混み合いますね.
長い列を作った登山客が,縄文杉を求めてぞろぞろぞろ
これじゃ福岡の天神と同じだ〜
こっちから縄文杉を見ただけじゃ屋久島の印象も違っていたんだろうな.
ぜひ人ごみの中の縄文杉だけじゃなく,宮之浦岳方面の魅力も味わってもらいたいものです.


ウィルソン株の中から見上げたハート(幹の中の湧き水がうまい.)
    



白谷雲水峡(某映画のモチーフ)
    


正直言って3日目は降りるのに精一杯でした.
◯◯杉があっても,ふたりとも「あ〜またスギね・・」って感じでローテンション(笑).
白谷雲水峡方面もしっかり楽しむには,また別の日に分けて登ったらよかったかも.


白谷雲水峡登山口についたときは縄文杉を見た時より感動した(笑)!


    


宮之浦におり,
宿のおやじさんに鹿肉が食べられるところを聞いて,屋久島観光センター2Fの食堂へ*2


鹿刺し定食と地魚刺身定食を注文し,ビールで乾杯!
いや〜絶食後のご飯は何でもおいしいですね(笑)
というのは冗談で,初めて食べた鹿肉は馬刺しに似てとても美味しかったです.
なによりビールがうまかった!
    

屋久島観光センター・屋久島ギャラリーレスト

食べログ 屋久島観光センター・屋久島ギャラリーレスト


宮之浦岳縦走,のちのち考えてみると結構無茶なことをしたな,と思います(笑)
運動不足のみに3日間の登山・・

でも気候の変化を肌で感じ,生きものの変化を楽しみ,上から垂直分布の眺めを楽しむことは宮之浦岳に登らないとできないことでした.
教授が「縄文杉倒れて欲しい・・」と冗談まじりに言っていたことがちょっとわかった気がします.
シンボル的な縄文杉だけでなく,その他のところにも屋久島の森の魅力があるんですね.


ぜひみなさんも宮之浦岳へ!

(つづく・・いつになるかな笑)

*1:わいわいランドは宮之浦の徳洲会病院の前にある,島で一番大きなスーパー.食料品から日用品までたぶんなんでもある.地元の方が買い物に来ていて,屋久島の台所が垣間見れるようで楽しい.100g290円お買い得のイセエビが気になった!

*2:この食堂には鹿肉の刺身しかありませんでした.鹿肉の焼肉などが食べたいなら安房の鹿肉専門店がおすすめ.