虫よけスプレーが効かないカが登場!?を考える

こんなニュースを見つけた.

(引用)

虫よけスプレーの効かない蚊が出現


Rachel Kaufman for National Geographic News May 11, 2010
 いずれは電気虫取り器を携帯する生活になるのかもしれない。最新の研究によると、現在最も普及している虫よけ成分「ディート(DEET)」が効かない蚊が出現し、その遺伝属性は子孫に伝わることが判明したという。

 ディート(ジエチルトルアミド)はほとんどの虫よけスプレーに使われている化合物で、植物の化学成分の研究を基に開発された。病気を媒介するカやダニなどを寄せ付けない効果を発揮する。

 研究チームの一員で、イギリスにあるロザムステッド農業試験場の化学生態学者ジェームズ・ローガン氏は次のように話す。「メスが産卵に必要な血液を狙っているときには、普段の食物(樹液や花の蜜)に対して何の興味も示さない。ディートを体にまとった人間は、カにとっておいしそうなにおいがしなくなるのだ」。

 しかし今回の研究で一部のネッタイシマカ(学名:Aedes aegypti)が、ディートの虫よけ剤を塗った人からも前と同じように吸血するようになったと判明した。ネッタイシマカデング熱や黄熱病を媒介する種である。調査の結果、遺伝子の変異により、カの触角にある感覚細胞がディートを感知しなくなっていたことがわかった。

 そしてこの変異型同士で繁殖が進むと、ディート非感知型の比率が一世代で13%から50%へ増加したという。研究成果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌オンライン版に5月3日付けで掲載されている。

 ただし、「無敵の害虫の出現を恐れる必要は今のところない」とローガン氏は注意を促す。非感知型の交配相手はほとんどが従来型で、しかも大量に存在する。「世界中の人間がディート漬けにでもなれば話は別だが」
引用;National Geographic もと記事はこちら(写真があります)

ディート漬け!?

虫よけ成分DEETへの耐性を持ったカが現れ,それが遺伝する事が分かったということだ.
虫よけ成分が効かなかったら夏の夜はどうすればいいんだ〜><・・と,夏はカに好かれて困っているhinkochiは考えてしまった.


しかし,冷静になって考えるとどうもそこまで心配しなくもいいみたいなのだ^^


ここで重要なのは上で示したジェームズ・ローガンさんの太字の言葉.

「世界中の人間がディート漬けにでもなれば話は別だが」

つまり世界中の人間がディートを大々的に使っているわけではない現状況では,ディート耐性をもつカが広がる可能性をあまり心配しなくてもいい,ということだ.
これはどういう意味だろうか.

ローガンさんの言葉は,ローガンさんの人柄をあらわす素敵なジョークだろうが・・・笑
ここではあえてジョークを真面目に捉えて,仮に世界中の人間がみなディート漬け(ディートを皮膚に常に塗っている状態)になったらどうなるか考えてみたい.


従来のカはディートを嫌がり吸血しない.


一方遺伝子に突然変異が起き,ディートに耐性をもつカはどうだろうか.これらのカはディート存在下でも関係なく吸血することができるので,従来のカより繁殖に有利になる.つまりディート耐性をもつカは,従来のカに比べより多くの子孫を残す事ができるわけだ.そしてそのような変異を受け継いだ子孫はまたまた多くの子孫を
残すことができる.この子孫もまたディートに耐性をもっているといえるだろう.このようにディート耐性をもつカが爆発的に増えてしまうことになるのだ.


つまり従来のカに対して自然淘汰が働き,カはディート耐性をもつ方向へと進化してしまうわけだ.


しかし,人々が常にディートを身につけている状況ではないので,自然淘汰の力,つまり淘汰圧は低く,ディート耐性をもつカだらけにはならない,ということだと思う.

感動した不妊虫放飼

一方文字通り「薬漬け」の状態に成りやすい作物の害虫は薬物耐性を身につけやすいだろう.
以前農薬に耐性を持った昆虫が現れ爆発的に広まってしまったというニュースがあった.カをはじめとする昆虫は1世代が短いので,突然変異が自然淘汰による進化にすぐに反映されやすい.そのため,一度耐性を持った個体が現れ,強い選択圧がかかると,集団にすぐ広まってしまう可能性がある.そのためには,1種類の決定的な農薬や方法に頼らずいろいろな方法を用意しておく必要があるのだ.


農薬に頼らず,薬物耐性をもつ種の進化を防ぎながらも,害虫の増殖を抑える方法として印象に残っているものがある(Z会の高校生物の問題で紹介されていた).沖縄県に台湾から移入した帰化昆虫,ウリミバエの根絶に利用された不妊虫放飼という方法だ.


この方法は害虫(ここではウリミバエ)を人工的に増殖し,放射線をあてることで不妊化し,それらを野外にはなす.そして野外にいる個体とこの不妊個体が交尾すれば,子孫を残す事はできず,次世代の個体数は確実に減少する.もし野外個体すべてが不妊個体とだけ交尾すれば計算上次世代の個体数は0になる.このため不妊個体を継続して野外にはなすことで,最終的に害虫の根絶に追い込むことができる.


なんてすごい方法なんだ・・とこの方法を見たとき感動した記憶がある.
受験生時代問題を解く事も忘れていろいろ調べてしまった・・笑


しかし不妊虫放飼にも問題点がある.ここではなす不妊個体が害を及ぼしてしまったら元も子もないのだ.
このウリミバエの場合,作物に害を与えるのが幼虫だけだったので,不妊の成虫をはなすことは何の問題にもならなかった.

しかしカの場合,人間を吸血するのは成虫であるから,一時的でも不妊個体を大量に離せば,かえって被害が広まってしまう.つまり,成虫が害を与えるカや,現在問題になっているブラックバスなどにこの方法は適応できないのだ.


自然界では植物の毒に対応した昆虫が進化し,またその昆虫に対し植物が進化している.このような互いに影響を及ぼし合っての進化を共進化とよぶ.
人間と害虫との戦いも1種の共進化といえるのではないだろうか.このことは人間もやはり自然の中のシステムの一部であることをさりげなく示しているように思えて何となくうれしい.

参考にさせていただきました.
wikipedia:不妊虫放飼